”Ave verum corpus”では、その繊細さを表現するためにあえて顔面の共鳴を”外して”挑戦しました。
4人の歌手がそれぞれお互いの声に耳をそばだてながら入念にリハーサルをしました。
目指す響きのイメージを共有して、普段と少し異なる共鳴の位置を個人個人で探りながら、結果的に各声部がブレンドするよう努力してみました。(なおピアニストにも協力してもらって、弱音ペダルを常用してもらいました。)
会場後方で収録した録音を聴く限り、あるいは観客からの感想を聞いた感じでは、思い描いた音色に幾分かは近付けたように思いました。体(横隔膜)の支え、喉の開きはそのままに、共鳴部分の微調整(コントロール)によりオペラと異なる音色を生む可能性を感じました。
一方、アンコールとして歌った”大地讃頌”では、その大きなスケールそのままに、普段通り(オペラ)の発声で演奏してみました。
録音を聴くと、こちらは一転して迫力はあるものの(あとオペラ歌手が歌うという奇抜さ・面白さはあるものの)、4人の声が独立して聞こえるため、音色の統一感やハーモニーの倍音の豊かさは減退しているように感じました。
ただし、各パート一人ずつのはずですが、知らずに聞くと何十人もの合唱隊による演奏のように聞こえました。おそらくピアノ伴奏とのバランス(弱音ペダル無し)やホールの残響の関係もあったと思います。あと歌詞の発音の明瞭度が格別でした(各パートが単独だからでしょう)。
普段、一人で巨大なオーケストラや1000人級の音楽ホールを対象にするオペラ歌手にはやはりそれなりの発声技術が必要です。一方、アマチュアの合唱団の発声指導(ヴォイス・トレーナー/※なぜかオペラ歌手が依頼されることが多い)や合唱団そのものの指導、結婚式の聖歌隊などの現場に接した時、自分が何を求められているのかを判断して実行しなくてはなりません。
スカラ座の合唱団養成コース在籍中にしばしば歌い聴いたオペラ歌手の集団による合唱、それはVERDIの「レクイエム」(ラテン語)でもBRITTENの合唱曲(英語)でもSCHUBERTやMENDELSSOHNの合唱付きリート歌曲(独語)でも、様々な作品にその国の文化や言語、時代を反映した”本物の”響きを作り上げようとしていた過程にこそ、この世界一権威ある歌劇場と言われるスカラ座への称賛と尊敬に値する理由かもしれないと思ったことを覚えています。(※写真は2008年スカラ座歌劇場内「トスカニーニの間」でのコンサート。後列中央の顔が半分なのが本人、チビですね~)
スカラ座で日本の作品が取り上げられてたら、もしかしたら何かヒントもあっただろうなとちょっと残念でしたが、これからの研究テーマの一つとして自らも実践しながら、オペラと合唱(アマチュア)の声楽的関連性に関心を持ち続けたいと思います。
(なんだか研究発表のレポートみたいになっちゃいました……すみません↘)