今回自分で演じる”フェントン”役のご紹介です!
ナンネッタの恋人である”好青年”フェントン。アクの強い登場人物たちに紛れた一服の清涼剤的な存在ですが、これはイタリアオペラのテノールの「メッゾ・カラッテレ(Mezzo carattere)=半性格的役柄」というカテゴリーで、その大まかな定義としては”喜劇作品の中で第1テノールとして配置されること。作品の本筋に深く関与しない(出来ない)立ち位置であること。若い恋人役であること。美しく柔らかい声であること。アリアや重要なフレーズでは軽やかさや柔軟さ、叙情性を求められると同時に、ある種の憂い(哀愁、物憂げな様子)を含むこと。”といった要素が挙げられます。後半の声楽的な条件は、特にフェントンのアリア”甘美な言葉は唇から”に集約されていると言えるでしょう。
このメッゾ・カラッテレの典型的な役として、「秘密の結婚」のパオリーノ、「結婚手形」のエドアルド、「アルジェのイタリア女」のリンドーロ、「泥棒かささぎ」のジャンネット、「ドン・パスクワーレ」のエルネスト、「ジャンニ・スキッキ」のリヌッチョなどがあり、他にも「愛の妙薬」のネモリーノ(本筋に深く関与すること以外で定義に該当)や、イタリアオペラではありませんがモーツァルトの「コジ・ファン・トゥッテ」のフェランドやJ.シュトラウスの「こうもり」のアルフレードなどもこれに近いカテゴリーにあるテノールの役となります。(そしてこれらのほとんどの役が自分がこれまで歌って来たレパートリーでもあります。)
周りの喧騒をよそに、ひたすらナンネッタへの愛を歌うフェントンの真っ直ぐな愛情は、最終的に彼女の父親フォードの許しを得て結婚を成就させることになります。主人公ファルスタッフとの直接的やり取りが全く無いにも関わらず、最後の大フーガ(“この世は全て冗談”)では主役ファルスタッフの隣に立って2番目に歌い出す(=実質フェントンからフーガが始まる)という大役を与えられているのは、作品中におけるAmore(愛)の体現者としての象徴だからかもしれませんね。
3幕2場の美しいアリアを歌わせてもらえる機会は今後なかなか無いかもしれない(楽曲が終止しないため単独であまり演奏されないアリアです)ので、いい声で歌えるよう頑張りたいと思います。
(※写真左は楽日組の清水徹太郎さん。2013年の兵庫芸文オペラで共演して以来、今回が久々の再会となりました!さすがテノール同士、この日は上着も同じ色!笑)