「ファルスタッフ」登場人物紹介〜10/10(完)〜

いよいよ大トリ、我らが”ファルスタッフ”!

 

若かりし頃はほっそりした二枚目の騎士(ナイト)でも、いまはお腹のデップリした巨漢の老兵ファルスタッフ。シェイクスピアの数ある創作人物の中でも傑出した人気を誇り、作者の死後もそのキャラクターが作品を離れて一人歩き出来た稀有な存在と評されます。大食いで大酒飲み、強欲で好色、恐喝に暴力、狡猾で小賢しい、それでいて臆病者。頭の回転は早くてキレ者で、皮肉、嫌味、罵詈雑言などありとあらゆる言葉で相手を愚弄しつつも時に教訓となるようなセリフも生み出し、見た目の愛嬌もあってどこか憎めないところもある…そんなキャラクターは古今東西の無数のオペラ作品の中でも唯一無二と言えるでしょう!そう、ファルスタッフは他のオペラのどの役柄とも似ていない”オンリーワン”な存在だと思います。

 

 

ある種の言葉遊び的な要素が満載のこの作品においてはイタリア語を「正しく」発音するだけでは不十分で、その先にあるニュアンスや裏の意味、語感の表す雰囲気などを表現してこそ真意が見えて来るとでも言うべきでしょうか。それはヴェルディの音楽にも、演技にも同じことが当てはまり、それらはもちろん主役のファルスタッフに集約されています。とにかくこの役を演じる歌手はありとあらゆる”芸術の引き出し”を開けて立ち向かっているのですね!(そして今回の藤原歌劇団公演にはその”芸術の引き出し”が豊富なお二人が出演されます!)

 

 

さらに忘れてはいけないのが「声」のこと。モーツァルトやロッシーニやドニゼッティなどのいわゆる「オペラ・ブッファ」と違って、この作品のオーケストレーションはあくまでもヴェルディの、それもその長い作曲歴の最後に到達した、ヴェルディ自身の中でもとりわけ複雑かつスケールの大きな音楽となっています。仮に小手先でそれらしく表現したとしても、たちまち強大なオーケストラの響きに掻き消されてしまうことでしょう!前回紹介したフォード役と同じく、ファルスタッフ役にもバリトンならではの強靭な響きが求められている点において、「セビリアの理髪師」のバルトロや「愛の妙薬」のドゥルカマーラなどのオペラ・ブッファの役柄たちとは全く異なる声楽的な力量(声の力)が必要とされています。

 

 

ご鑑賞頂くお客様にはとにかくこのファルスタッフの一挙手一投足、そして声の魅力に注目して楽しんで頂きたいですね!藤原歌劇団では10年ぶりとなる「ファルスタッフ」、主役はやっぱりファルスタッフなのですから!(笑)

 

 

 

(※写真左が初日組の上江隼人さん、右が楽日組の押川浩士さん。1983年初演時の絵コンテにはファルスタッフの特異な風貌がしっかり描かれています、扮装シーンでの鹿の角は別の意味も隠されて…さて、今回の公演ではどんなふうに?)