ここからは男声陣。まずはその名も拳銃、”ピストーラ”!
オペラの男性歌手には大きく分けて3つの声種=テノール/バリトン/バスがあるのですが、その最低音域を担当するのがバス(イタリア語ではBasso/バッソ)であり、このオペラの男性6役で唯一その声種をあてがわれているのがピストーラ役となります。アンサンブルオペラであるこの作品においては重唱部分が大半を占めており、男声5重唱や混声9重唱ではこのピストーラの声が音楽面での支えとなっています。(ちなみに男性6役の声種の割り当てはテノール3役、バリトン2役、バス1役。)
役どころは主人公ファルスタッフに付き従う「素行不良者」、ファルスタッフの手足となって傍のバルドルフォと共に数々の悪事をはたらいて来た無頼漢、荒くれ者、チンピラ、ごろつきの類!まぁ決してお世辞にも「綺麗な役」ではありませんね(笑)。
名前からして危険な香りの漂う”ピストーラ”(英語のピストル)。拳銃こそ持ち合わせてはいませんが、頭に血が上るとすぐに刀剣を振りかざして相手を威嚇したり、人並外れた怪力を誇示したりと、何かと危なっかしい大柄な男として登場します。片眼に黒い眼帯を装着した見た目もインパクト抜群ですよ!
キャストのクレジットでは一番下の「脇役」にも関わらず、戦前の名バス歌手I.ターヨをはじめ、G.ネーリ、C.シエピ、I.ヴィンコなどイタリアの偉大なバス歌手たちがこの役を演じています。彼らのような主役級バス歌手がピストーラ役を務めれば、決して観ている人が気が付かないような「端役」ではなく、声でも演技でもしっかりと見せ場も存在感もある「大きな役」に見えたことでしょうね(実際に彼らはバス歌手の常として見た目も大きく、G.ネーリに至っては2メートル以上の大巨人でした!)。
今回出演されるピストーラのお二人も普段は主役級を歌う実力の持ち主ですが(初日組の伊藤貴之さんは今年のお正月のNHKニューイヤーオペラコンサートに出演されたばかりの、日本のトップランクのバス歌手です!)、ある意味で「もったいない配役」がされているところも藤原歌劇公演らしいかもしれませんね。今回ならではの贅沢なピストーラをどうぞお楽しみ下さい!
(※左が伊藤貴之さん、右が楽日組の小野寺光さん。ヒゲも似合うお二人ですが、私より歳下です。)