女声陣のトリはリーダーの”アリーチェ”!
メグの紹介でも触れましたが、このオペラの物語は老騎士ファルスタッフが身の程も知らずにメグと、そしてアリーチェに、同じ内容の恋文を送るところから始まります。貴族のフォード氏の妻であるアリーチェはその事(言わば”不倫”と”二股”を同時に申し込まれた事。しかも肉体的にも外見的にも、何より中身の性格的にも到底受け付けない男からの厚顔無恥なアプローチである事)に立腹し、この機会に懲らしめてやろうと仲間と共に「ファルスタッフ退治」を始めます。
賢くて行動力も有るアリーチェ。彼女は機知に富んだ様々な策を立案し、周りの仲間たちに役割を差配し、召使達には指示を出し、時には自らが囮となってファルスタッフと直接対峙します(リュートの演奏シーン)。そのリーダーシップは際立っていて、あらゆるオペラ作品の女性役の中でこれほどの「リーダーぶり」を発揮するキャラクターはなかなか思い付きません!独立したアリアを与えられていないにも関わらず、その卓越した音楽的(声楽的)、演技的魅力がプリマ・ドンナたちの表現者としての意欲を高める役柄と言えるかもしれませんね。
R.テバルディ、R.カバイヴァンスカ、声が成熟したM.フレーニ、D.デッシー、そしてこの2000年代はB.フリットリなどがこの役の代表的なソプラノ歌手で、スカラ座をはじめ世界中の劇場でこの役及びこの作品の真価を広めて来ました。軽やかで透き通った声のナンネッタとは対照的に、よりサイズ感の大きなヴェルディやプッチーニをレパートリーの中心に置くLiricoからLirico-Spintoの声が適していますが、一方で演技面ではテキパキと舞台を仕切る”スピード感”も求められるため、舞台経験を重ねてある程度の引き出しを蓄えた(まさに先出の名ソプラノたちのような)歌手によって歌い演じられるとアリーチェの魅力が存分に発揮されるのでしょうね。
今回の藤原歌劇団公演でも経験値豊富なお二人がこの役を務められます、両日それぞれの魅力的なアリーチェをどうぞお楽しみ下さい!
(※写真左が初日組の山口佳子さん、右が楽日組の石上朋美さん。1893年の初演時の絵コンテからもアリーチェの性格が滲み出ていますね!)