フェントンの恋人役、”ナンネッタ”をご紹介します!
四人の女声陣の中で唯一の未婚者であり、まだ少女の香りも漂う若い娘役のナンネッタは、大人のご夫人たちの中にあってアイドル的な存在として別次元の輝きを放っています。母親のアリーチェから受け継いだであろう頭の回転の良さと行動力、そしてなんと言ってもその飛び切りの愛嬌が彼女の魅力ですね。特にフェントンとのいくつかの短いデュエットのシーンでは、その若草のような瑞々しさが眩しく舞台上で煌めいていて必見です!
男女合わせて10人のキャストが登場する歌劇「ファルスタッフ」ですが、実は演奏会などで単独で演奏されるアリアは意外にも少なく、ファルスタッフ、フォード、フェントンの男声3人と、女声陣ではこのナンネッタだけに与えられています。最終幕の第二場、妖精の女王に扮装したナンネッタが歌う”夏のそよ風の吹く上を(Sul fil d’un soffio etesio)”は女声合唱を伴う神秘的な曲想のアリアで、高低差のある柔らかなフレージングや弱音での高音の持続が聴く人の耳に最上の至福を届けてくれる、そんな素敵な一品です。(稽古場でも聴きながらいつもうっとりしていました!)
LeggeroからLirico-Leggeroの声種のソプラノが歌うこの役にとっての最大の見せ場でもあり、「ナンネッタ推し」の観客にとっては一番の聴きどころでしょうね!イタリアのプリマドンナとして歴史に名を残すT.ダル・モンテをはじめ、戦後だけでもA.モッフォやR.スコット、M.フレーニ、K.リッチャレッリ、そしてM.デヴィーアら、それぞれの時代の”ディーヴァ(Diva=歌姫)”たちがその若い頃にナンネッタを歌っている事実が、この役がいかに大切なレパートリーであるかを物語っています。(なおナンネッタを含むどのアリアも、歌い終わった後に拍手や「ブラボー!」などの掛け声で曲が止まるといった、”いかにも”なアリアではありません。このあたりのヴェルディの作曲法は、自らを含むそれまでの伝統的なイタリア式と言うよりは、むしろ音楽が途切れることが一切無いワーグナーの手法に近いように感じられます。)
(※写真左が初日組の光岡暁恵さん、右が楽日組の米田七海さん。お二人は同じ大学を卒業した先輩後輩でもあり、オペラの授業では先生と生徒の関係でもあったそうです。プロの世界で同じ役、同じカンパニーでお仕事出来るなんて素敵なことですね!そして同組で恋人役を演じる光岡さんとは、自分が藤原歌劇団に正式入団した2012年の「夢遊病の女」で初共演した時から同団内外でご縁が続き、山口県の自主企画公演にゲスト出演してくれたこともあります。既に来年もオペラで共演する予定が内定していて、その素晴らしい美声を誰よりも近くで聴かせてもらえる”特権”をこの先も保持出来ることを嬉しく思います。)