国際芸術祭あいち2022での「ユーロペラ3」公演が終了しました。
“4分33秒”という有名な作品(演奏者はその時間、「何も音を発さない」という不思議な楽曲)で知られる、現代音楽分野の巨匠ジョン・ケージ(1912〜1992年)の晩年の作品となる「ユーロペラ1〜5」のうち、今回はその3と4が8/13,14の両日に愛知県芸術劇場小ホールで上演されました。私はそのうちの「ユーロペラ3」に出演させて頂きましたが、その一週間前はモーツァルトが1770年に作曲したオペラ「ポントの王ミトリダーテ」に出演したばかりで、わずかな期間になんと200年も時代を飛び越えることとなりました!(笑)
と言ってもこの「ユーロペラ3」では、演奏者6人(本来はオペラ歌手のみですが、今回は演出の足立智美さんのオリジナルアイデアにより2名の能楽師が参加)が既存のオペラアリアを無伴奏=アカペラで不均等に定められた時間と場所で演奏するというものなので、特に今回の上演にために何か新しい楽譜や音楽を習得したということではありません。
ステージ上には将棋やオセロの盤のような四角いマス目が60余り描かれていて、あらかじめ決められた時間と場所に奏者がその都度移動して演奏します。6名の歌い手(能楽師含む)に加えて、2台のピアノと12台の蓄音機(音源はレコード創成期の歌手によるオペラアリアと日本の古い流行歌)、そしてコンピュータ操作によるSE(サウンド・エフェクト:「ステージ上の全ての音を凌駕する音量」と指示された、古今のオペラアリア何百曲の断片を重ね合わせた”轟音”が、決められたタイミングでまるで空中を移動するかのように会場全体に何度も流れます。)が、時には1人(1基)ずつ、時には複数で音を発します。作品全体で丁度70分で、その間オペラ歌手と能楽師はそれぞれ6曲の持ち曲をランダムなタイミングで演奏するのですが、様々な音(蓄音機やSEも含めてとにかく物凄い音量です!)の中で周りに影響されずに音程やリズムを保ちながら演奏するのはそれ相応の苦労と”ストレス”がありました。特に初日のリハーサルでは共演者の皆さんも戸惑いが大きかったように思います。
それでもリハーサルを重ね当日のゲネプロぐらいになると、不思議なことにこの環境というか状況に段々と自分が「ハマって」いく感覚が訪れ、予定していたアリアの曲を本番で急に変えたり、歌う向きを変えてみたりと、通常の(クラシックの)舞台ではご法度ともいえるような”即興的な要素”を楽しみたくなりました。その場その場で起こる不規則な事象が、自分や聴衆に与える目に見えないインスピレーションや感動、頭の中のクエスチョンなどに直結する面白さ、楽しさが少しずつ感じられるようになりました。
例えば、リハーサル初日に初めて聞いたSEの”轟音”(爆音!)は、鼓膜がおかしくなるんじゃないかと思うくらいの、演奏家としては耐え難い大音量で聞こえていたのですが、2日目以降はそこまででもなくて、操作スタッフの方に「音量って少し下げましたか?」と確認したところ「初日と同じです」とのお答えが!(笑) このような不思議で興味深い体験がいくつもあって、最終日の公演後にはまたいつかやってみたいと思う自分がいましたね!(なお2日連続公演で、歌い手の演奏する曲目や立ち位置、衣装などは日によって異なっています。)
演出家さんと今回の企画のコーディネーターさんとは偶然にも、今から約25年前の山口県秋吉台で毎年開催されていた現代音楽セミナーに参加していたという共通の話題があって昔話に花が咲きました。色んな音楽体験が時を経てどこかで誰かと繋がる喜びを感じつつ、今回の”不思議な舞台”もいつか何かと繋がっていくといいなぁと思います。貴重な機会を頂きありがとうございました、楽しかったです!
(※写真左上:初日カーテンコール 右上:2日目の本番中。この日はタキシード姿。後方に蓄音機と能楽師さん! 中央:関係者全員の集合写真。真ん中の赤いTシャツの方が演出の足立智美さん。 左上:初日前半の衣装姿。 右下:オペラ歌手4人で。右から2人目のバスの森雅史さんは2日前から急遽代役として参加されました。素晴らしい歌唱と衣装姿の存在感が圧倒的でした!ありがとうございました。)