リサイタルへの誘(いざない) 〜16/18〜

トマの歌劇「ミニョン」のアリアは、今回はイタリア語で歌います。

 

 

トマの最高傑作とも言われるこのオペラは1966年(ヴェルディが「ドン・カルロ」を、ワーグナーが「ニュルンベルクのマイスタージンガー」を作曲した頃)に初演され、半年間で100回も上演されるほどの大ヒットとなりました。その後も上演回数を重ねてトマが84歳で亡くなるまでに1,000回を超え、作曲者が”存命中”に上演1,000回を超えた史上初めてのオペラ作品でもあります。

 

 

しかしなぜか第二次大戦以後はそれほど上演されることがなくなり、特に日本ではめったにお目にかかることの出来ないオペラの一つですが(市販される映像資料もほとんどありません。)、分かりやすいストーリーといくつもの魅力的なアリアがあることを踏まえると「もっと上演されてもいいのにな…」と思う作品です。特に主役のミニョン(メゾ・ソプラノ)が歌うアリア「君よ知るや南の国」は、ご年配の方々には昭和50年(1975年)に天地真理が主演した同名のミュージカルと歌謡曲(歌:天地真理)でもお馴染みのメロディーではないでしょうか。

 

 

ジプシーの旅芸人一座で手荒く扱われていた娘ミニョンを見て不憫に思ったウィルヘルム(テノール)は彼女を小姓として買い取って面倒を見ますが、ある時ミニョンが華やかな舞台衣装を着ている姿を見たウィルヘルムは、小娘だと思っていた彼女は立派なレディー(大人の女性)なんだと自覚し、もう側に置いておけないと別れを告げます。この時歌われるのが今回歌うアリア『さようなら、ミニョン  Addio, Mignon(原題:Adieu, Mignon)』です。

 

 

さて、トマの原曲はもちろんフランス語で書かれているのですが、今回はあえてイタリア語での歌唱を選びました。自分がこのアリアを愛するようになった原因である往年のテノールたち(ベニアミーノ・ジーリ、ティート・スキーパ、フェルッチョ・タリアヴィーニ、ジュゼッペ・ディ・ステーファノなど)の音源(CDの録音)がいずれもイタリア語だったからで、本来なら原語で歌唱すべきところですが今回に限りそのオマージュとして、彼らと同じくイタリア語で歌いたいと思います。

 

 

叙情的なメロディーや弱音の見せ場、最後の情熱が迸る高音など、上記の偉大なテノールたちの素晴らしい演奏を聴いてすっかりこの曲の虜になってしまいました。学生の頃からよく練習室では歌っていたこのアリアですが、これまでコンサートで単独で歌う機会が無く、今回初めて人前で歌わせて頂く機会を得ました。プログラムの中でも自分が歌いたい気持ちが最も強い曲の一つです。

 

 

 

(歌詞)

さようなら、ミニョン、泣かないでおくれ!

悲しみは君の青春の時の中ですぐに過ぎ去るだろう。

神様が神を慰めてくれるだろうし、

僕も君を見守ってあげるよ。

泣かないでおくれ!

 

君の生まれ故郷はきっと見つかるだろう、

そして歩みの中で幸せな人生も見つかるだろう。

ああ、君を手放す時にあっても、可愛い人よ、

僕は君とまたいつか会える希望を胸に抱いているのだ。

 

さようなら、ミニョン、泣かないでおくれ!

神様が君を慰めてくれるだろうし、

僕も君を見守ってあげるよ。

さようなら、泣かないでおくれ!

 

 

 

(※写真右上:ウィルヘルムがミニョンに別れを告げるこのアリアのシーンの挿絵。  右下:G.ディ・ステーファノがイタリア語でウィルヘルム役を歌った全曲版のCDジャケット。ミニョン役は当時最高のメゾ・ソプラノとして名高いジュリエッタ・シミオナート。)