アルマヴィーヴァ伯爵役を振り返って

今回がロールデビュー(初役)となった伯爵役について。

 

題名の”セヴィリアの理髪師(Il Barbiere di Siviglia)”はあとから変更されたもので、実はもともとは”アルマヴィーヴァ、または無益な用心(Almaviva,ossia I’inutile precauzione)”というタイトルでした。この事からも分かるように、ROSSINIはこのオペラの主役として、伯爵に重要な役回りを与えています。

 

 

その端的な例として、写真のように伯爵はオペラの中で何度も衣装替えやメイク変更を求められます。フィガロの智恵で、ロジーナに近づくためにバルトロの家に変装して侵入するために酔っぱらった兵隊になったり、ドン・バジリオの弟子と偽って怪しい音楽教師に変装したりして、本来二枚目役であるはずの伯爵自身がドタバタ劇をリードするシーンも多々あります。

 

 

序曲の直後の登場(すぐにアリアを歌います)からフィナーレに至るまで、舞台に出ている時間が全キャストの中で最も多く、さらに出てない時間は舞台裏で次の扮装のための早着替えとメイクの修正に追われて、とてもスリリングな役柄を初めて体験することができました。

 

 

舞台でのシーンが終わって楽屋に戻る度に衣装さんやメイクさん、床山さん(カツラ担当)に体を預け、スタッフさんの手で持たれたペットボトルの水をストローで飲み、汗をぬぐう事もなく濡れた肌着の上に次の衣装を重ねていく……以前テレビで見た「歌舞伎俳優の早着替え」を想像させる、そんな大変な現場でしたが、不思議と疲れよりもワクワク感に満ち溢れていたのを覚えています。

 

 

これでもまだ繰り返し部分など数か所カットがあったのと、なにより最後の伯爵の大アリア(「もう逆らうのはやめよ」。終幕フィナーレ直前の約8分にわたる超絶技巧のアリア。)がカットされていたということで、11月の名古屋公演(原語上演+カット無し+大アリア有りの完全版!)はさらに負担が大きいことを覚悟しながら、それでもまたワクワク感が感じられたらいいなと思います。

 

 

 

素晴らしい衣装を今回のためにミラノで作ってくれたSteve Almerighiさん(衣装合わせから本番初日までずっと客席からチェックして下さいました。)はじめ、関係スタッフ皆様に心から感謝申し上げます。きっと一生忘れられない贅沢な時間をありがとうございました!